大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5169号 判決
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〔判決理由〕請求の原因第一項、第二項の事実は当事者間に争いがないので、これらによれば被告会社は自動車損害賠償保障法第三条、被告村上は民法第七〇九条により、それぞれ連帯して原告の損害を賠償すべき義務を負うことが明らかである。
そして<証拠>を綜合すれば、原告は事故当日(昭和四一年七月二七日)松下病院による診療を受け、その際原告の主張するとおりの傷病名により今後約三ケ月間の入院、加療、休養を要し、なお退院後なお数ケ月間の通院加療を要する、との診断がなされ、更に同年八月一七日付の診断によれば、入院加療中のところ更に二週間の加療継続を要す、と訂正され、その二ケ月後である同年一〇月一八日付の診断によれば、自四一年七月二七日至一〇月九日入院、加療、休養をした、今後約三ケ月間の通院加療を要す、但し合併症の起つた場合にはこの限りにあらず、と診断され(以上いずれも同一病院)、その後においても特に合併症の発現は認められないにも拘らず(但し後記の後遺症を残している)、同病院において昭和四五年二月二四日から同年一二月八日(継続中)まで各通院治療を受けるに至つたこと、そしてこのうち松下病院の治療費については全部(五五〇、四六八円)を昭和四三年七月二五日被告会社が病院に直接支払つていること、その後当事者間に争いのない経過(再抗弁事実)により本訴に至つたこと、
以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
ところで不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知つたときから三年間これを行使しないときは時効により消滅するものとされる(民法第七二四条)。この規定は、期限の定めのない債権については債権成立のときから消滅時効が進行する(いつでも催告して遅滞に附し以てこれを行使し得る)ことを前提とし、損害及び加害者を知ることによりこれがいつでも可能となつたものとみる趣旨と解せられる。そこで行使し得る、との観点からこの点を検討してみると、損害を知るとは、もとよりその損害は発生しているのであるからその程度や数額を具体的に詳細に知ることまでを要するものとはいえないが、被害者がこれを請求する場合加害者において通常の知識、常識をもつ者ならば直ちに判断乃至推測し得てこれに応ずることのことのできる程度の内容(具体性)をもつことが必要であるものというべく、もしそうでないものと解するとすれば、全知全能者の存しない現代において加害者は見通し不可能乃至著しく困難な損害の把握、評価を全部強いられ、その不可能を履行しないことを理由に全面的な遅滞の責を負わされるという不利益を負う。これはいかにも不合理であり、その反面として、被害者においても右の加害者を附遅滞になし得る程度に具体性(傷害内容)を把握(予測し得る)する(但しその程度数額までもを具体的に把握することまでを意味するものではない)までは消滅時効が進行しない、換言すればこれを把握できないことは、権利行使についての法律上の障害と解することが妥当である。従つて被害者がこれを把握した程度で、その範囲内においてのみ時効は進行するものと解すべきである。
これを本件についてみれば、事故当時入院約三ケ月を要すると診断され、その後若干の迂余曲折があつたとはいえ、ほぼその予測のとおり経過しているのであるから、原告もこれを知ることができ、これらに伴う通常の費用等は原告においても或程度これを推計(評価)することができたものであり、従つて時効が進行していたものというべきところ、原告は本訴において当該部分については請求の対象としていない(被告会社において既に支払済であること前認定のとおり)のであつて、その余の点は、評価の資料に照すも本訴提起の三年前の段階でこれを把握することはできないものであつたと認められれるので、本訴請求分(後日の訂正分も、当初一部請求として区別していたものではない)については未だ消滅時効は完成していないものといわなければならない。
被告のこの点に関する主張は採用できない。 (寺本嘉弘)